工業用品から日用品、医療・化粧品まで幅広く使われているスプレー塗料は、実は成分や特性が大きく異なります。この記事では、ラッカースプレーとアクリルスプレーの違いや、素材・用途に応じた適切な選び方を詳しく解説します。業務用途から個人利用まで、プロ仕様の塗装品質を実現する塗料選択のポイントがわかります。
ラッカースプレーとアクリルスプレーの基本知識と成分の違い

ラッカースプレーとアクリルスプレーの根本的な違いは成分にあります。両者の見分け方と特性の違いを体系的に理解し、スプレー缶の表示情報から塗料種類を判別する実践的な方法を身につけることで、用途に最適な塗料選択が可能になります。

ラッカースプレーとは何か?ニトロセルロース成分の特徴
ラッカースプレーとは、揮発性の高い溶剤にニトロセルロース(硝化綿)などの樹脂や合成樹脂を溶かして作られた塗料をスプレー缶に詰めたものです。ニトロセルロースは紙や綿の繊維であるセルロースを濃硝酸や濃硫酸などの液体に混ぜて化学変化を起こして作られる樹脂で、特殊な製造工程を経ています。
このニトロセルロースを揮発性の高い溶剤(トルエンやアセトンなど)に溶かしたものがラッカー塗料となります。溶剤が揮発することで乾燥し硬い塗膜を形成する仕組みで、磨き上げることで美しい光沢を得ることが可能です。ラッカーという名称は、分泌物が製造に使われていた「ラックカイガラムシ」という昆虫に由来しています。現在では本来のニトロセルロースラッカーだけでなく、速乾性塗料の総称として「ラッカー」という名称が使われることも多くなっています。
アクリルスプレーの成分と塗膜形成の仕組み
アクリルスプレーの主成分は、アクリル樹脂などの合成樹脂です。本来は「合成樹脂塗料」と呼ぶべきですが、速乾性の特徴から「アクリルラッカー」と呼ばれています。
主成分はラッカーと同様で有機溶剤と樹脂、そして顔料であり、使われている主要な樹脂がアクリル合成樹脂であるのが大きな違いです。従来のラッカー塗料よりもさらに速乾性が高いため扱いやすく、安価な上に重ね塗りも可能という特徴があります。
水性アクリルは水を主成分とし、油性アクリルは有機溶剤を使用しています。アクリル樹脂の特性により、ラッカーより柔らかく密着性の高い塗膜を形成するため、古くからあるニトロセルロースラッカーの弱点を補った塗料ともいえるでしょう。
缶スプレーの表示から見分ける塗料種類の確認方法
スプレー缶の塗料種類は、缶の裏面にある品名欄で確認できます。品名に「ラッカー」と記載されていれば、それはニトロセルロースラッカーです。品名が「合成樹脂塗料」となっている場合はアクリルラッカーを指しています。
水性ラッカーは商品ラベルに「水性」と記載されているはずです。成分表示欄からも塗料の種類を判別することができ、ニトロセルロースの有無や使用樹脂の種類を確認することで正確な判断が可能となります。
金・銀色のスプレーについては、顔料の特性上アクリル樹脂を使用することが多いため、実はアクリル塗料である場合があります。仕上がりの質感を重視する場合は事前に確認することをおすすめします。
溶剤の強さによる塗料の分類と相性
塗料に使用される溶剤の強さには明確な順序があり、ラッカー>ウレタン>油性>水性の順となっています。これは各塗料に使用される溶剤の種類と揮発性の違いによるものです。強い溶剤を使った塗料を弱い溶剤の塗料の上に重ね塗りすると、下地の塗膜を溶かしてしまうリフティング現象が発生します。
有機溶剤の種類(シンナー、トルエン、アセトン等)と各塗料での使用状況により、溶剤の強さが塗装面への影響を左右する仕組みとなっています。

ラッカースプレーとアクリルスプレーの使い分けと選び方

素材や用途に応じた適切な塗料選択は、塗装の成功を左右する重要な要素です。仕上がりの質感や耐久性を考慮した選び方の基準を理解し、重ね塗りする際の塗料相性と失敗を防ぐポイントを把握することで、最適な塗装結果を得ることができます。
素材別の適切なスプレー塗料の選定基準
金属・鉄部への塗装には、ラッカーが最適です。ラッカーは金属との相性が良く、硬い塗膜で保護効果が高いためです。木材には水性が最適とされ、素材への吸い込み注意が必要ですが美しい仕上がりが期待できます。
プラスチック素材への塗装時は特に注意が必要で、ラッカーの強い溶剤でプラスチックが溶ける可能性があるため、水性またはプラスチック用塗料を推奨します。発泡スチロールも溶剤で溶解するため素材確認が必須となります。

用途に応じた塗料選択のポイント
屋内使用では水性、屋外使用では油性やラッカーが適しています。これは臭いの問題と耐候性・耐水性の違いによるものです。耐久性を重視する場合、ラッカーは硬い塗膜で傷に強く、アクリルは柔軟性があり割れにくいという特徴があります。
仕上がりの質感による選び方では、光沢仕上げにはラッカーが最適で磨き上げで強い光沢を得られます。つや消し仕上げでは各塗料のつや消しタイプの特徴を活かし、手触りの面ではラッカーが粘着感のない仕上がりを実現します。用途と求める品質に応じた適切な選択により、満足度の高い塗装結果を得ることができます。
重ね塗りする際の塗料の相性と注意点
リフティング現象(下地の塗膜が溶ける)のメカニズムを理解し、防止方法を実践することが重要です。強い溶剤が下地の塗料を溶かしてシワや剥がれが発生するため、安全な重ね塗りの基本ルール「弱い溶剤→強い溶剤」の順序を守る必要があります。
水性→油性→ウレタン→ラッカーの順で重ね塗り可能です。推奨される組み合わせとして、カラー塗装+ウレタンクリヤーがあります。
ラッカーで色付け後、2-3時間乾燥後にウレタンクリヤーで保護することで、美しい発色と優れた耐久性を両立できます。既存塗装への重ね塗りでは下地塗料の種類確認が必須となります。
水性・油性による分類とそれぞれの特性

水性と油性の基本的な違いを理解し、それぞれのメリット・デメリットを把握することで、作業環境や素材に応じた適切な使い分けが可能になります。各種スプレー塗料の乾燥時間の違いと作業計画への影響も考慮した選択が重要です。
水性ラッカースプレーの特徴とメリット
水性ラッカースプレーは、水溶性アクリル樹脂と水を主成分とした環境配慮型塗料です。有機溶剤を使用しない(または含有量の少ない)ため毒性が非常に低く、独特のシンナー臭などもないことから屋内でも使いやすい特徴があります。
室内作業に適した低臭性と安全性により、換気の心配が少なく安全に作業できます。乾燥前なら手についた塗料などを水洗いで落とすことが可能で、後始末も容易です。希釈も水で行えるので別途シンナー(うすめ液)が必要なく、伸びなども油性の塗料より良いとされています。
乾燥後は優れた耐水性を発揮し、水に溶け出すことはありません。色数なども豊富に揃っているので工業用途から一般用途まで幅広く対応できる扱いやすい塗料といえます。
油性ラッカースプレーの耐水性と使用場面
油性ラッカースプレーは、有機溶剤の揮発により強固な塗膜を形成するため、優れた耐水性・耐候性を発揮します。雨や紫外線に対する耐性が高く、屋外での使用に最適です。金属部品の防錆・保護効果も高く、高い耐久性が求められる箇所での使用に適しています。
しかし、強い溶剤により発泡スチロールやプラスチックが溶ける場合があるため、素材確認が必須となります。シンナー等有機溶剤を使用するため希釈後もシンナー臭が強く残り、作業時は十分な換気と保護具の着用が必要です。
塗装後乾燥するとシンナー臭はほとんど感じられませんが、表面が硬化した後でもシンナーに対する耐久性はないため、表面が溶けてしまう可能性があります。長期間の美観維持が必要な工業部品や、厳しい使用環境下での塗装に威力を発揮する塗料です。
各種スプレー塗料の乾燥時間と作業効率
各塗料の乾燥時間には大きな違いがあり、作業効率に直接影響します。
塗料の種類 | 表面乾燥(夏季) | 表面乾燥(冬季) | 完全乾燥 | 重ね塗り可能時間 |
ラッカー | 10-20分 | 20-60分 | 24時間以上 | 15-25分後 |
油性アクリル | 1時間以上 | 1時間以上 | 24時間以上 | 1時間後 |
水性 | 40-50分 | 50分以上 | 24時間以上 | 40分後 |
ウレタン | 2時間以上 | 2時間以上 | 約3日 | 2時間後 |
季節(気温・湿度)による乾燥時間の変化と対策も重要です。気温5℃以下では塗料が乾きにくく出来栄えが悪くなることがあり、30℃以上では塗料が空中ですぐ乾いてしまい表面がぽつぽつしたものが出来ることがあります。
作業効率を高める乾燥時間の活用方法として、ラッカーの速乾性を活かした多数回塗りが可能ですが、重ね塗りは間隔を空けたほうが早く仕上がります。半乾きの時に重ね塗りしてしまうと、下の層のシンナーが蒸発しにくい状態になり、トータルの乾燥時間は余計に長くなってしまいます。
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