CO2排出削減は、地球環境の保護や持続可能な社会の実現に向けた重要な課題です。日本の温室効果ガス排出量は、2021年度において11億7,000万トンに達し、そのうち90.9%をCO2が占めているのが現状です。政府は2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を掲げており、企業には積極的なCO2削減への取り組みが求められています。特に企業には、CO2削減の取り組みが求められ、社会的な責任を果たすだけでなく、企業価値の向上やコスト削減にもつながる可能性があります。本記事では、企業がCO2削減のために実践できる具体的な方法と、それがもたらすメリットについて詳しく解説します。
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CO2削減のために企業にできること

企業がCO2削減に取り組む方法は多岐にわたりますが、効果的な施策を優先順位をつけて実施することが重要です。まずは自社のエネルギー使用状況を把握し、削減効果の高い施策から着手することが推奨されています。
再生可能エネルギーの導入や省エネ対策、エネルギー管理の効率化など、企業規模や業種に応じて最適な方法を選択することが可能です。以下では、代表的な5つの取り組みについて詳しく見ていきましょう。
再生可能エネルギーの導入
企業がCO2削減を実現する最も効果的な方法の一つが、再生可能エネルギーの導入です。
・再エネ由来電力への切り替え
現在の電力契約を再生可能エネルギー100%の電力プランに変更するだけで実現できます。
・自家消費型太陽光発電
自社の屋根や敷地に太陽光パネルを設置し、発電した電力を自社で使用する方法です。初期投資は必要ですが、長期的には電力コストの削減につながります。
・オンサイトPPAモデル
第三者が太陽光発電設備を設置・運営し、企業は発電された電力を購入する仕組みで、初期投資なしで再エネを導入できる利点があります。
企業規模や資金力、将来計画に応じて最適な方法を選択することが重要です。
空調・照明の省エネ対策
オフィスや工場における空調・照明の省エネ対策は、比較的少ない投資で大きなCO2削減効果が期待できる施策です。空調については、フィルターの定期清掃により冷暖房効率を5~10%改善でき、適切な温度設定(夏28℃、冬20℃)により年間約30%の電力削減が可能となります。
また、高効率空調機への更新により、最大50%の省エネ効果が得られる場合もあります。照明対策では、LED化により消費電力を約50~70%削減でき、人感センサーの導入で不要な点灯を防ぐことができます。
さらに、タスク・アンビエント照明の採用により、必要な場所に必要な明るさを提供しながら全体の照明エネルギーを削減できます。これらの対策は、初期投資額と削減効果のバランスに優れており、多くの企業で優先的に実施されています。
エネルギー管理の効率化
企業のエネルギー使用を「見える化」し、効率的に管理することは、継続的なCO2削減を実現する上で欠かせません。エネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入により、電力使用量をリアルタイムで把握し、無駄なエネルギー消費を特定・削減することが可能になります。
EMSは、設備ごとの電力使用量を詳細に記録・分析し、ピークカットや負荷平準化を自動的に行うことで、電力料金の削減にも貢献します。また、キュービクルや変圧器などの電力設備を高効率機器に更新することで、電力損失を最小限に抑えることができます。
移動・輸送の見直し
企業活動における移動・輸送部門のCO2削減は、多角的なアプローチが必要な分野です。社用車の電気自動車(EV)への転換は、走行時のCO2排出をゼロにできる効果的な対策であり、充電インフラの整備と併せて導入が進んでいます。
物流面では、積載率の向上や配送ルートの最適化、トラック輸送から鉄道や船舶への「モーダルシフト」により、CO2排出量を大幅に削減することが可能です。
さらに、テレワークやオンライン会議の活用は、通勤や出張に伴うCO2排出を削減するだけでなく、働き方改革にも寄与します。サプライチェーン全体を視野に入れた輸送最適化により、上流から下流まで一貫したCO2削減を実現できます。
カーボンオフセットの導入
省エネや再生可能エネルギー導入を実施してもなお削減しきれないCO2については、カーボンオフセットという選択肢があります。日本では「J-クレジット制度」が代表的な仕組みで、他者のCO2削減・吸収量をクレジットとして購入し、自社の排出量と相殺することができます。

ただし、カーボンオフセットは実際にCO2を削減するわけではないため、あくまでも自社での削減努力を十分に行った上で、最後の手段として活用すべきです。
クレジットの購入に際しては、その削減・吸収の確実性や永続性を確認し、適切な情報開示を行うことが重要です。
CO2削減 に向けた三谷バルブの太陽光発電システム導入事例

日本国内の製造業におけるCO2削減の取り組み事例として、エアゾールバルブやディスペンサーポンプの製造を手がける株式会社三谷バルブの事例をご紹介します。
同社は「持続可能な社会の実現」を目指し、製造拠点での太陽光発電システム導入を積極的に推進しています。白河工場と滋賀工場における具体的な取り組みと成果について見ていきましょう。
白河工場の取り組み
福島県に位置するミタニの白河工場では、日用品に欠かせないシャンプーやハンドソープのポンプを主力製品として製造しています。同工場には組立機械が100台ほど稼働しており、1日で160万個ものポンプを送り出す生産力を誇ります。
環境への配慮も積極的に進めており、2022年2月には大規模な太陽光発電システムを導入。工場の屋根には1,686枚のソーラーパネルが並び、最大出力は450kWで、年間発電量は578,766 kWh/年です。この優れた発電能力と蓄電システムにより、工場全体の年間電力使用量の14%程度をまかなうことに成功しています。
この環境配慮型のエネルギー活用により、年間のCO2削減量は260トンに達する見込みです。これは、スギの木1万8,600本分のCO2吸収量に匹敵する規模です。さらに、事務所入口に設置されたモニターで発電量や電力消費量をリアルタイムで確認できるシステムを採用しており、従業員の環境意識向上にも一役買っています。
滋賀工場の取り組み
比較的新しい製造拠点である滋賀工場は、2020年5月の操業開始以来、エアゾールバルブをはじめ、ボタンや外装品の生産を手がけています。最新設備を備えた同工場では、高い生産能力を誇り、バルブを1日20万本、外装品においては100万個もの製品を生み出しています。また、先進的な無人・省人化システムを導入し、効率的な製造ラインを実現しています。
環境保全への意識も高く、2022年3月からは太陽光発電システムの運用を開始。工場の屋根には315Wの最大出力を持つソーラーパネル379枚を配置し、年間発電量は138,708kWhに達すると予測されています。
さらに、環境負荷の低減に向けた取り組みは多岐にわたります。例えば、使用する段ボールは古紙含有率の高い素材への切り替えを進め、製品の梱包に使用する袋も、より少ない樹脂量で済む材質を採用するなど、さまざまな角度から環境に配慮した施策を展開しています。
CO2削減が企業にもたらすメリット

企業がCO2削減に取り組むことで得られるメリットは、環境保護への貢献だけにとどまりません。経済的な利益から社会的評価の向上まで、企業価値を高める多様な効果が期待できます。
これらのメリットを理解することで、CO2削減への投資が単なるコストではなく、企業の持続的成長につながる戦略的な取り組みであることがわかります。具体的にどのようなメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。
コスト削減効果
エネルギー効率の向上や廃棄物削減によるコスト削減効果が挙げられます。例えば、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの利用により、長期的には電力コストを大幅に削減できます。
例えば、LED照明への導入では消費電力を約50~70%削減でき、適切な空調設定により年間約30%の電力削減が実現できるでしょう。
また、再生可能エネルギーを活用することで、電力価格の変動に影響されなくなる点もメリットとして挙げられています。太陽光発電システムなどの自家発電設備を導入すれば、初期投資は必要ですが、長期的な運用により電力の自給が可能となり、将来的なエネルギーコストの上昇リスクを回避できるでしょう。
ブランドイメージの改善
環境配慮企業としての認知度が向上し、ブランドイメージの改善につながるでしょう。消費者の環境意識が高まる中、エコフレンドリーな企業としての評価は、新たな顧客獲得や市場シェア拡大の機会となります。
従業員のエンゲージメント向上も期待できます。共通の環境目標に向けて取り組むことで、従業員の仕事への誇りや満足度が高まり、優秀な人材の獲得や定着率の向上にもつながります。
投資家からの評価向上
ESG投資における重要な評価指標として、投資家からの評価向上が挙げられます。CO2削減への積極的な取り組みは、企業の持続可能性を示す重要な要素となり、資金調達や企業価値向上に寄与します。
また、現在は「サステナビリティ・リンク・ローン」という融資手法が広がっており、借り手が野心的なサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)を達成することで金利優遇などのインセンティブが得られる仕組みとなっています。
これにより、環境対応に積極的な企業は、より有利な条件で資金調達が可能となります。サステナビリティ経営の高度化により、中長期的なESG評価の向上につながり、企業価値の向上に資するとされています。
ー サスティナビリティ・リンク・ローンの仕組み ー

企業がCO2削減に取り組む際の注意点

CO2削減は重要な経営課題ですが、効果的に推進するためには適切な計画と実行が不可欠です。闇雲に取り組みを始めるのではなく、自社の状況を正確に把握し、実現可能な目標設定と体制構築が求められます。
ここでは、企業がCO2削減に取り組む際に特に注意すべき3つのポイントについて解説します。これらの注意点を理解し、適切に対処することで、より効果的かつ持続可能なCO2削減の実現が可能となるでしょう。
正確な排出量の把握から始める
CO2削減の第一歩は、自社の現状を正確に把握することから始まります。多くの企業では、電力使用量や燃料使用量のデータは把握していても、それをCO2排出量に換算していないケースがあります。
正確に計算し、どこから多く出ているか特定すれば、効果的な対策が立てられます。定期的に測定して効果を確認し、改善を続けることも大切です。
関連記事:CO2排出量の計算方法は?温室効果ガスの削減に向けた取り組み方も解説
投資判断と費用対効果を慎重に検討する
CO2削減施策の導入には、多くの場合初期投資が必要となるため、費用対効果の慎重な検討が欠かせません。例えば、太陽光発電システムの導入には数千万円の投資が必要ですが、電力料金の削減効果や補助金の活用により、10年程度で投資回収が可能な場合があります。
一方、省エネ型設備への更新は、比較的少額の投資で即効性のある削減効果が期待できるのです。重要なのは、短期的な視点だけでなく、設備の耐用年数全体でのトータルコストを考慮することです。
カーボンプライシングの導入可能性など、将来的な規制強化も視野に入れた投資判断が求められます。国や自治体の補助金・税制優遇措置を活用することで、実質的な投資負担を軽減できる場合もあるため、最新の支援制度情報を常に把握しておくことが重要となるでしょう。
ー カーボンプライジングの一例(排出量取引制度) ー

全社的な取り組み体制の構築
CO2削減を成功させるには、経営層から現場まで全社一丸となった取り組みが不可欠です。まず、経営トップがCO2削減の重要性を認識し、明確な方針とコミットメントを示すことが重要となります。
次に、環境担当部署だけでなく、各部門に削減目標を設定し、責任者を明確にする必要があるのです。従業員一人ひとりの意識改革も重要で、定期的な環境教育や省エネ活動の見える化により、全員参加の風土を醸成します。削減活動の成果を適切に評価し、インセンティブを付与することで、継続的な改善を促すことができるでしょう。
外部専門家の活用や、同業他社との情報交換も有効です。サプライチェーン全体での取り組みも視野に入れ、取引先との協働によりスコープ3の削減にも取り組むことが、真の意味での脱炭素経営の実現につながります。
ー サプライチェーン(スコープ3)の仕組み ー

三谷バルブではCO2削減を推進しています
本記事では、企業がCO2削減に取り組むための具体的な方法とそのメリットについて解説してきました。再生可能エネルギーの導入から省エネ対策、カーボンオフセットまで、様々な選択肢があることがお分かりいただけたと思います。
エアゾールバルブやディスペンサーポンプの製造を手がける株式会社三谷バルブは、持続可能な社会の実現を目指し、積極的にCO2削減に取り組んでいます。白河工場では年間260トン、茨城工場では年間65トンのCO2削減を目標に太陽光発電システムを導入しました。2024年8月には国際的な「ISCC PLUS認証」を茨城工場で取得し、サプライチェーン全体での環境負荷低減を推進しています。
環境配慮型製品の開発、材料選定の工夫、働き方改革など、製造業として「エネルギーを使う立場」と「モノを作る立場」の両面から環境への取り組みを実践しています。「変えるべきもの」と「変えてはいけないもの」を見極めながら、品質と環境性能の両立を追求し、これからも脱炭素社会の実現に向けて、モノづくりの現場から積極的な取り組みを続けてまいります。
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