最近、「バイオマス由来」と書かれた製品を目にする機会が増えていませんか?でも実は、その製品に含まれるバイオマス成分が100%ではないかもしれません。そこで活躍するのが「マスバランス方式」という考え方です。この記事では、マスバランス方式の仕組みやメリット、課題について分かりやすく解説します。環境に配慮した製品選びをしたい方や、サステナブルな事業展開を検討している企業の方にとって、理解しておきたい重要な概念です。
マスバランス方式とは

マスバランス方式とは、工場に入れた原料の量と、出来上がった製品の量をきちんと計算して、「この製品は○○原料(例:バイオマス由来原料)で作りました」と決める管理方法のことです。環境省の「バイオプラスチック導入ロードマップ」では以下の定義をしています。
マスバランス方式の定義
原料から製品への加工・流通工程において、ある特性を持った原料(例:バイオマス由来原料)がそうでない原料(例:石油由来原料)と混合される場合に、その特性を持った原料の投入量に応じて、製品の一部に対してその特性の割り当てを行う手法。
引用:環境省|バイオプラスチック導入ロードマップ – 持続可能なプラスチックの利用に向けて –
簡単に言えば「特別な特性を持つ原料(例:バイオマス原料)をどれだけ投入したかに応じて、できあがった製品の一部を『その特性を100%持つ製品』として扱ってよい」という仕組みです。つまり、実際の含有率に関係なく、投入量ベースで製品の特性を決められるということです。
具体例で説明しましょう。バイオマス原料3トンと石油原料7トンを混ぜて10トンの製品を作ったとします。
通常なら全製品を「バイオマス30%含有」と表示しますが、マスバランス方式では、3トン分を「バイオマス100%製品」、7トン分を「石油製品」として割り当てて販売できます。実際にはすべての製品に30%ずつ混ざっていても、使用したバイオマス原料の総量は変わらないため、環境への貢献度は同じという考え方です。
従来のセグリゲーション方式との違い
今までの作り方(セグリゲーション方式)は、とてもシンプルでした。例えば、植物原料4トンと石油8トンを混ぜて12トンの製品を作ったら、すべての製品に「植物成分33%含有」と書いていました。
一方、マスバランス方式では同じ原料比率でも、4トンを「100%バイオマス製品」、8トンを「石油由来製品」として割り当てることができるのです。この違いにより、専用設備なしでバイオマス100%製品を市場に提供できるようになりました。
セグリゲーション方式とマスバランス方式の比較
比較項目 | セグリゲーション方式 (分別管理方式) | マスバランス方式 (物質収支方式) |
---|---|---|
基本的な考え方 | インプットで投入された原料が、アウトプットの製品にそのまま使われる従来通りの方式 | インプットとアウトプットのバランスを管理し、投入量に応じて製品の一部に特性を割り当てる方式 |
原料の管理方法 | 石油由来原料とバイオマス由来原料を完全に分離して管理 | バイオマス由来原料と石油由来原料が製造工程で混合されることを前提 |
製品の表示方法 | 実際の含有率をそのまま表示 (例:バイオマス成分33%) | 投入量に応じて割り当て (例:100%バイオマス由来製品として割り当て) |
具体例 | バイオマス4トン+石油8トン=12トン生産 →バイオマス成分33%の製品12トン | バイオマス4トン+石油8トン=12トン生産 →4トンを100%バイオマス製品、8トンを石油製品として割り当て |
カーボンニュートラル実現への重要なアプローチ
なぜ今、実際の含有率と異なる表示を認めるマスバランス方式が注目されているのでしょうか。それは、地球温暖化を防ぐには「今すぐ」行動することが大切だからです。すべての工場を建て替えて、100%植物原料の製品だけを作るのは時間もお金もかかりすぎます。
でも、マスバランス方式なら今ある工場をそのまま使えるので、明日からでも始められます。段階的にバイオマス利用を拡大できるため、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの両立に向けた現実的なアプローチといえます。
マスバランス方式がもたらすメリット

マスバランス方式の導入により、企業は環境負荷の低減と経済性を両立させることができます。従来のバイオマスプラスチックが抱えていた「高コスト」「限定的な製品展開」「設備投資の必要性」といった課題を、この方式は巧みに解決します。バイオマス原料の使用を促進しながら、既存の生産体制を維持できるため、企業にとっても消費者にとってもメリットの大きい手法となっています。
化石資源使用量とCO2排出量の削減効果
マスバランス方式でバイオマス原料を使用すると、枯渇が心配される石油の使用量を確実に減らすことができます。さらに重要なのは、植物由来のバイオマスが持つカーボンニュートラルの特性です。
植物は成長過程で大気中のCO2を吸収しており、製品が廃棄されて燃やされても、もともと大気中にあったCO2が戻るだけなので、トータルでCO2は増えません。実際、代表的なプラスチックであるポリエチレンやポリプロピレンでは、石油由来品と比較して約60%ものCO2削減効果があることが報告されています。
この削減効果は、製品全体のライフサイクルで評価されており、地球温暖化対策に大きく貢献します。
既存設備を活用した効率的な生産体制
「新しい環境配慮型の製品を作るには、新しい設備が必要」と思われがちですが、マスバランス方式なら既存の工場をそのまま活用できます。これは企業にとって大きなメリットです。
新規の設備投資が不要なだけでなく、品質評価のやり直しも必要ありません。
なぜなら、炭素や水素が石油由来かバイオマス由来かの違いだけで、できあがる製品の物性・品質は従来品とまったく同じだからです。ユーザー企業も既存の加工ラインで問題なく使用でき、スムーズな切り替えが可能となります。
幅広い製品ラインナップへの展開可能性
私たちの身の回りには、プラスチック製品があふれています。ペットボトル、レジ袋、スマホケース、車の部品まで。マスバランス方式なら、これらすべてを一気にバイオマス化できる可能性があります。
これまで技術的に困難だった高機能プラスチックのバイオマス化も実現可能になりました。さらに将来は、ゴミとして捨てられたプラスチックを原料にする考えも進んでおり、サーキュラーエコノミーの実現にも貢献するのです。
需要に応じた柔軟な生産調整
市場のニーズは常に変化しますが、マスバランス方式ならバイオマス由来原料の投入量を調整するだけで、バイオマス製品の生産量をコントロールできます。「今月はエコ商品をたくさん作って!」「来月は普通の商品を多めに」なんてことも。
このような要望にも、植物原料を入れる量を調整するだけで対応できるのです。新しい機械を買う必要もないし、工場を止める必要もありません。企業は市場の変化に素早く対応しながら、段階的にサステナブルな生産体制へ移行できます。
マスバランス方式における認証制度の重要性

「本当にバイオマス原料を使っているの?」という疑問を持つ方もいるでしょう。マスバランス方式では、原料の投入から製品への割り当てまでの全工程を厳格に管理し、その信頼性を第三者が保証することが不可欠です。
ISCC PLUS、REDcert、RSBといった国際認証機関による監査と認証取得により、企業の主張する環境価値が正しいことを証明します。化学品分野ではISCC認証、紙・パルプ産業ではFSC認証、パーム油ではRSPO認証など、各産業分野で認証制度が確立されており、サプライチェーン全体の透明性と信頼性を担保しています。
マスバランス方式が直面する課題と解決策

マスバランス方式は多くのメリットをもたらす一方で、いくつかの課題も抱えています。「割り当て」という考え方の理解促進、トレーサビリティの確保、経済性の改善など、持続可能な発展のためには、これらの課題に真摯に向き合い、解決していく必要があります。産業界、行政、消費者が協力して、より良い仕組みづくりを進めることが重要です。
トレーサビリティと透明性の確保
マスバランス方式の最大の課題は、バイオマス原料が確実に投入されているか、製品への割り当てが正確に行われているかを証明することです。原料の調達から製品の出荷まで、サプライチェーンのすべての段階で情報を記録・共有する必要があります。
不正を防ぐためには、第三者認証機関による定期的な監査が欠かせません。また、ブロックチェーン技術などを活用したデジタルトレーサビリティシステムの導入も進んでいます。これらの取り組みにより、消費者は安心して環境配慮型製品を選択できるようになります。
消費者理解の促進と市場認知の向上
「100%バイオマス製品」と表示されていても、実際には石油由来成分が含まれているかもしれない――この「割り当て」の概念は、消費者にとって分かりにくいものです。誤解を防ぐためには、マスバランス方式の仕組みを丁寧に説明し、社会全体のバイオマス使用量増加という大きな目的を共有することが大切です。
企業は適切な表示方法を工夫し、行政は統一的なガイドラインを整備する必要があります。消費者教育や啓蒙活動を通じて、この方式が環境保護に貢献する意義を広く伝えていくことが、市場認知の向上につながります。
経済性とサステナビリティの両立
現在、バイオマス由来原料は石油由来原料と比べて依然として高価です。この価格差が、マスバランス方式を採用してもなお、バイオマス製品の普及を妨げる要因となっています。
しかし、多くの人が植物原料の商品を選べば、たくさん作れるようになって値段も下がります。また、炭素税やプラスチック税などの環境規制が強化されれば、石油由来製品との価格差は縮小するでしょう。
企業は長期的な視点で投資判断を行い、消費者は環境価値を適正に評価することで、経済性とサステナビリティの両立が実現します。
製造業界におけるマスバランス方式の実践と未来

日本の企業も、続々とマスバランス方式を取り入れています。食品パッケージから自動車部品まで、いろんな分野で活用が進んでいます。
この動きは単なる環境対応ではなく、新たなビジネスチャンスの創出にもつながっています。技術の進歩とみんなの環境意識の高まりで、マスバランス方式はこれからもっと広がっていくでしょう。
環境配慮型製品開発の加速
マスバランス方式により、これまで「バイオマス化は無理」と諦めていた製品にも、環境配慮の道が開けました。高機能エンジニアリングプラスチック、特殊化学品、さらには電子材料など、従来は石油由来原料でしか製造できなかった分野でも、バイオマス認証製品の開発が進んでいます。
企業は既存の技術や設備を活かしながら、消費者の「エコな商品がほしい」という声にすぐに応えられるようになりました。このように環境意識の高まりに素早く応えることは、企業の競争力強化にもつながっています。
持続可能な社会実現への企業の取り組み
SDGsの達成に向けて、多くの企業がマスバランス方式を戦略的に活用しています。単に自社製品のバイオマス化を進めるだけでなく、サプライヤーや顧客を巻き込んだサプライチェーン全体での環境負荷低減に取り組んでいます。
例えば、原料メーカーと最終製品メーカーが協働して認証を取得したり、業界団体で統一基準を策定したりする動きが活発化しています。また、投資家や金融機関も「環境に優しい企業に投資したい」と考えるようになりました。
このようなステークホルダーとの協働により、持続可能な価値創造のエコシステムが形成されつつあるのです。
三谷バルブが推進する次世代の環境対応
私たち三谷バルブは、茨城工場でISCC PLUS認証を取得し、マスバランス方式を活用した環境配慮型製品の開発に取り組んでいます。「エアゾールバルブ」や「ディスペンサーポンプ」など、日用品に欠かせない部品にバイオマス由来原料や再生原料を使用することで、消費者の皆様の日常生活からCO2削減に貢献できると考えています。
グローバルな一貫生産体制を活かし、世界中のお客様に高品質で環境に優しい製品をお届けすることが私たちの使命です。今後も革新的な技術開発を進め、持続可能な社会の実現に向けて挑戦を続けてまいります。
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