プラスチックは、私たちの生活に欠かせない素材として普及していますが、その歴史は意外に浅く、わずか100年ほど前に誕生したに過ぎません。
軽くて丈夫、安価で加工しやすいという特性から、あっという間に私たちの生活のあらゆる場面に浸透していったプラスチック。しかし、大量生産・大量消費に伴う環境汚染など、負の側面も無視できなくなっています。
そこで本記事では、プラスチックの誕生から普及に至る歴史を振り返るとともに、プラスチックが抱える問題と、その解決に向けた取り組みについて解説します。
プラスチックの由来・はじまり
プラスチックという言葉は、ギリシャ語で「形作ることができる」という意味の「plastikos」が語源となっています。プラスチックの歴史は、1835年にフランスの化学者ルニョーが初めて塩化ビニルとポリ塩化ビニルの粉末を作成したことから始まります。
その後、1860年代にアメリカでセルロイドが発明され、象牙の代替品としてビリヤードの球に使用されたことで商品化が進みました。
1907年にはベークランドによって、石炭を原料とする初の完全合成樹脂であるフェノール樹脂が開発され、電気絶縁体として幅広く使われるようになりました。
1860年代|セルロイドの発明
1860年代、ビリヤードの球は象牙で作るのが一般的でしたが、当時の象牙の価格高騰が問題となっていました。そこで1868年、アメリカ人発明家ジョン・ウェズリー・ハイアットがセルロイドを発明し、象牙の代替材料として提案しました。
セルロイドはニトロセルロースを可塑剤で柔らかくした半合成樹脂で、加熱すると自在に形を変えられる画期的な素材でした。
その後、セルロイドを使ってビリヤードの球の製造に成功し、櫛や人形、フィルムなど様々な用途に応用されていきます。しかし一方で、セルロイドは可燃性が高く、衝撃にも弱いという欠点があり、取り扱いには細心の注意が必要でした。
1907年|合成樹脂プラスチックの発明
セルロイド以外で最初の合成樹脂プラスチックを発明したのは、ベルギー生まれの化学者レオ・ベークランドでした。
1907年、ベークランドはニューヨークの研究所で実験を重ね、石炭から抽出したフェノールとホルムアルデヒドを反応させることで、熱硬化性樹脂である「ベークライト」の開発に成功します。
ベークライトは、電気絶縁性や耐久性、耐薬品性に優れ、工業製品や電気部品の筐体など幅広い用途で使用されました。溶剤に溶けず、高温でも溶けないという特性から、航空機や自動車の部品としても重宝されました。
その後も、ベークランドの業績に触発された科学者たちによって、様々な種類の合成樹脂プラスチックが次々と開発されていきます。
プラスチックが普及した理由
プラスチックが爆発的に普及した背景には、第二次世界大戦による金属不足とその代替品としてのプラスチック需要の高まり、戦後の大量生産・大量消費社会の到来という2つの大きな理由がありました。
戦時中、軍需物資としての金属の優先供給により、民間での金属不足が深刻化する中、プラスチックは代用品として脚光を浴びます。軽くて丈夫、さびない、電気を通さないなどの特性から、プラスチック製品はあらゆる分野で金属製品を置き換えていきました。
一方、戦後は大量生産技術の発展と経済成長により、安価で利便性の高いプラスチック製品が一般家庭に急速に普及。使い捨て容器や包装材など、大量消費を支える素材としてのプラスチックの需要が高まっていったのです。
第二次世界大戦で不足した金属の代替品としての需要増
第二次世界大戦中、軍事用途で金属資源が優先的に使用されたことから、民間での金属不足が深刻化しました。そこで、金属の代替材料としてプラスチックが脚光を浴びることになります。実際、1940年代前半の数年間だけで、アメリカのプラスチック生産量は約4倍に急増しました。
プラスチックは、軽量で耐久性があり、錆びにくく、電気を通さないなどの優れた特性を持っていたため、電線被覆や車両部品、航空機部品など、幅広い分野で金属の代用品として重宝されたのです。
戦争によって技術革新が加速され、新たなプラスチック素材の開発も急ピッチで進められました。皮肉なことに、戦争がプラスチック産業の発展を大きく後押しすることになったのです。
安価かつ利便性の高い日用品としての大量消費
戦後、プラスチック製品は安価で大量生産が可能という大きな利点を武器に、私たちの日常生活に急速に浸透していきました。1950年代から60年代にかけての高度経済成長期には、電化製品や自動車、生活雑貨など、あらゆる分野でプラスチック製品が導入され、消費者の生活を一変させました。
特に、食品包装や使い捨て容器の分野では、ガラスや紙からプラスチックへの素材転換が急速に進みます。スーパーマーケットの普及とも相まって、ビニル袋や発泡スチロールトレーなどの使い捨てプラスチック製品が大量に消費されるようになりました。プラスチック産業は、大量生産・大量消費社会の象徴ともいえる存在となったのです。
出典:OECD POLICY HIGHLIGHTS Improving Markets for Recycled Plastics – Trends , Prospects and Policy Responses
一般社団法人 資源・リサイクル促進センター
身のまわりの物質の資源循環・3R プラスチック 世界ではどんなプラスチック製品が生産されているの
マイクロプラスチック問題の発端・解消に向けた取り組み
大量生産・大量消費を支えてきたプラスチックですが、その一方で深刻な環境汚染も引き起こしています。特に近年問題視されているのが、マイクロプラスチックによる海洋汚染です。
マイクロプラスチックとは、5mm以下の微細なプラスチックのことで、1970年代に初めて海洋調査で発見されました。2004年頃から問題の深刻さが広く認識され始め、その発生源は、廃棄されたプラスチックの劣化や化粧品のスクラブ剤など多岐にわたることがわかってきました。
海洋生物への悪影響だけでなく、食物連鎖を通じて人の健康をも脅かす可能性があることから、使い捨てプラスチック削減や代替素材開発など、解決に向けた取り組みが急務となっています。
プラスチックの歴史と持続可能な活用への挑戦
プラスチックは、19世紀半ばに初めて合成されて以来、その利便性の高さから急速に普及し、現代社会に欠かせない素材となりました。戦時中の金属不足を機に需要が高まり、戦後の大量生産・大量消費社会の到来とともに、私たちの生活のあらゆる場面に浸透していったのです。
しかし、安易な使い捨てが引き起こすマイクロプラスチック汚染など、プラスチックがもたらす環境負荷も深刻さを増しています。プラスチックのメリットを生かしつつ、デメリットを最小化していくためには、素材研究と3Rの推進、消費者の意識改革など、官民挙げての取り組みが不可欠です。プラスチックと賢く付き合っていくことが、持続可能な社会の実現につながるのです。
こうして、プラスチックと賢く付き合うためには、適切な加工技術の選択も重要なポイントです。
株式会社三谷バルブでは、射出成形という手法を用いてプラスチック製品を製造しています。射出成形は、溶けたプラスチックを金型に流し込んで成形する、最もメジャーなプラスチック加工方法の一つです。
プラスチックのメリットを最大限に引き出し、高品質な製品を効率的に生産するために、射出成形技術の進化は欠かせません。三谷バルブにおける射出成形の取り組みについては、以下の関連記事で詳しく解説しています。