食品用の容器や包装に使える原材料は決まっていることをご存じですか?本記事では、2025年6月に本格施行されたポジティブリスト制度について、その内容や事業者への影響をわかりやすく解説します。食品関連事業者や容器包装を扱う方が知っておくべき重要な情報をお届けします。
ポジティブリスト(PL)制度とは?わかりやすく解説

ポジティブリスト制度とは、「原則として、国が安全性を評価した物質しか使えない」というルールです。なお、ポジティブリスト制度は農薬や添加物など食品以外の分野にも存在しますが、本記事では食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について解説します。
これまで日本では、「危険な物質のリスト」を作り、それ以外なら使ってもよいという考え方でした。しかし新しい化学物質が次々と開発される現代では、まだリストに載っていない有害物質が使われるリスクがあったのです。
そこで2020年6月、食品衛生法の改正により、ポジティブリスト制度が施行されました。
この制度では、国が安全性を評価した物質だけを「ポジティブリスト」に掲載し、それ以外の物質は原則使用禁止となります。2025年6月1日には5年間の猶予期間が終了し、制度が本格的にスタートしました。


参照:消費者庁「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について(2025年6月1日以降)」
従来のネガティブリスト制度との違い
ポジティブリスト制度をより深く理解するため、従来のネガティブリスト制度と比較してみましょう。
ネガティブリスト制度とは、「原則自由だが、禁止リストにある物質は使えない」というルール。一方、ポジティブリスト制度は「原則禁止で、許可された物質のみ使える」という真逆の考え方になります。
ポジティブリスト制度とネガティブリスト制度の比較表
| 観点 | ポジティブリスト制度 (新しい制度) | ネガティブリスト制度 (従来の制度) |
| 規制の考え方 | 原則禁止 リストに掲載された、国が安全性を評価した物質「のみ」使用を許可する。 | 原則自由 リストに掲載された、危険な物質「以外は」基本的に使用できる。 |
| 安全性 | 高い(予防的) 未知の物質や未評価の物質が食品に触れるリスクを未然に防ぐことができる。 | 低い(事後的) 新しい化学物質など、まだ規制されていない物質によるリスクが発生する可能性がある。 |
| 国際整合性 | 高い 欧米をはじめとする諸外国で主流の方式。グローバルスタンダードに準拠しており、輸出入がスムーズになる。 | 低い 国際的には少数派の方式。海外との取引において、規制の違いが障壁となる場合がある。 |
| 事業者の対応 | サプライチェーン全体での管理が必要 使用する物質がリストに適合しているか確認し、その情報を取引先に正確に伝達する義務がある。 | 自社の管理が中心 禁止物質を使用していないことを確認すればよく、事業者間の情報伝達は義務化されていなかった。 |
なぜポジティブリスト制度が導入されたのか?目的を解説
ポジティブリスト制度が導入された目的は、主に以下の2つがあります。
1. 食品安全性のさらなる向上
従来のネガティブリスト制度では、禁止リストに載っていない新しい化学物質が使われる可能性がありました。しかし、後になって有害性が判明するケースもあります。ポジティブリスト制度では、国が安全性を評価した物質しか使えないため、未知の有害物質によるリスクを未然に防ぐことができます。
2. 規制の国際標準化(国際整合性)
欧米をはじめとする多くの国では、すでにポジティブリスト制度が導入されています。日本も国際的な基準に合わせることで、輸出入がスムーズになり、日本製品の信頼性向上にもつながります。グローバルに事業展開する企業にとって、各国で異なる規制に対応するコストが削減できるメリットもあります。
また、これらに加えて、食品用器具・容器包装の安全性に対する消費者の関心の高まりも、制度導入の背景にあります。より厳格な管理体制を整えることで、消費者の安心・安全を確保することが求められているのです。
参照:厚生労働省「食品用器具・容器包装に関するポジティブリスト制度」
ポジティブリスト制度が注目される社会的背景

そもそも、なぜ今この制度が重要視されているのでしょうか。それには、社会的な背景があります。
近年、環境意識の高まりから「詰め替え(リフィル)文化」が急速に普及しています。シャンプーや洗剤だけでなく、食品分野でも詰め替え容器の利用が広がっているのです。サステナビリティへの関心が高まる中、消費者は環境への配慮だけでなく、容器の衛生面や安全性にも敏感になっています。
繰り返し使用する容器だからこそ、使われている素材の安全性がより重要になるでしょう。「この容器は本当に安全なのか?」「何度も使って大丈夫なのか?」という消費者の不安に応えるためにも、ポジティブリスト制度による厳格な管理が求められています。
実際、世界的にも持続可能な包装市場は急成長しており、2023年には約3,292億ドル、2030年までに約5,183億ドルに達すると予測されています。日本でもグリーンパッケージ市場が拡大しており、2024年の149億ドルから2033年には245億ドルに成長する見込みです。
このように、ポジティブリスト制度は単なる規制ではなく、環境に配慮しながら消費者の安心・安全を守るための重要な取り組みなのです。
【食品衛生法】ポジティブリスト制度の対象範囲

ポジティブリスト制度の対象範囲について、具体的に見ていきましょう。
この制度の対象となる材質は「合成樹脂」です。合成樹脂とは、プラスチック製品のことで、ペットボトル、食品トレー、ラップフィルム、パウチ容器など、私たちの身の回りにある多くの食品容器が該当します。
注目すべきは、対象となる物質が以下2種類に分けられる点です。
基ポリマー(基材) : 容器や包装の主要な構造を形成する物質です。ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが該当します。
添加剤 : 基ポリマーに加えて、機能を向上させるために使用される物質です。酸化防止剤、可塑剤、着色料などが含まれます。
なお、金属、ガラス、紙、ゴムなどの合成樹脂以外の材質は対象外です。ただし、これらの材質でも食品に触れる面に合成樹脂がコーティングされている場合(例:缶詰の内側コーティング、紙パックの内側フィルム)は、そのコーティング部分がポジティブリスト制度の対象となります。
ポジティブリストの一覧はどこで確認できる?
実際にどの物質が使えるのかを確認したい場合、リストはどこで見られるのでしょうか?
ポジティブリストは、消費者庁のウェブサイトで公開されています。「食品、添加物等の規格基準」の別表第1に、使用が認められた基材と添加剤が詳しく掲載されています。
ただし、リストは専門的な化学物質名が並ぶため、一般の方には分かりにくい内容となっています。そのため、実務的には容器メーカーや包装資材の供給業者に適合証明書を依頼するのが確実です。
多くのメーカーでは、自社製品がポジティブリストに適合していることを証明する書類を用意しています。容器や包装資材を購入する際は、取引先に「ポジティブリスト制度に適合していますか?」と確認し、証明書の提供を求めましょう。
事業者に求められる具体的な対応とは?

ポジティブリスト制度に対応するため、食品関連事業者には具体的にどのような対応が求められるのでしょうか。以下の3つのステップで解説します。

安全な原材料の調達
まず、使用する容器包装がポジティブリストに適合しているか確認する必要があります。具体的には、容器や包装資材のサプライヤー(供給業者)に対して、「この製品はポジティブリストに適合していますか?」と問い合わせ、適合証明書を入手します。
証明書には、使用されている基ポリマーや添加剤が適合していることが記載されています。この書類は取引記録として保管しておくことが重要です。

適正な製造管理(GMP)
容器包装を製造する事業者には、衛生的な環境で製造管理を行う体制(適正製造管理、GMP)を整えることが義務付けられています。これには、製造施設の衛生管理、従業員の衛生教育、記録の保存などが含まれます。
食品製造事業者の場合は、使用する容器包装が適切に管理されたものであることを確認する必要があります。

取引先への情報伝達
ポジティブリスト制度では、情報伝達の義務化が特に重要なポイントです。容器包装の製造・販売事業者は、取引先に対して「この製品はポジティブリストに適合しています」という情報を、書面や電子データで明確に伝える義務があります。
口頭での説明だけでは不十分で、仕様書、品質保証書などの形で、事後的に確認できる方法での情報提供が必要なのです。
ポジティブリスト制度のメリットとデメリット

ポジティブリスト制度には、事業者にとって多くのメリットがあります。一方で、制度そのものが抱える課題もありますので、それぞれを理解しておきましょう。
まず、ポジティブリスト制度の導入によって得られる主なメリットは以下の3点です。

消費者からの信頼向上
厳格な安全基準をクリアした容器包装を使用していることで、消費者からの信頼が高まります。

製品の安全性向上
未知の有害物質が食品に触れるリスクを未然に防ぎ、健康被害を予防できます。

国際競争力の強化
欧米と同等の規制基準を満たすことで、海外市場への参入がスムーズになります。
一方、制度には課題も存在します。新規物質のリスト収載には時間を要するため、革新的な包装材料の実用化が遅れる可能性があります。また、適合証明書の管理や情報伝達体制の整備には専門知識とリソースが必要で、中小企業にとっては負担となる場合があります。 しかし長期的には、企業のブランド価値と信頼性を高める重要な取り組みといえます。
ポジティブリスト制度に関するよくある質問

ポジティブリスト制度について、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q1. 経過措置(猶予期間)はいつまでですか?
2020年6月1日から5年間の経過措置期間が設けられ、2025年5月31日に終了しました。2025年6月1日以降は、ポジティブリストに適合した製品でなければ製造・販売できなくなります。
Q2. 違反した場合の罰則はありますか?
はい、あります。食品衛生法に基づき、罰則(例:1年以下の懲役または100万円以下の罰金)が科される可能性があります。
Q3. 対象外となるものはありますか?
金属、ガラス、紙、ゴムなどの合成樹脂以外の材質は対象外です。ただし、これらの材質でも食品に触れる面に合成樹脂がコーティングされている場合は対象となります。
Q4. 海外の制度(アメリカのFDAなど)とは同じですか?
考え方は似ていますが、リストに収載されている物質は各国の基準で異なるため、完全に同じではありません。輸出を検討する場合は、輸出先の国の規制を確認する必要があります。
ポジティブリスト制度対応の容器なら三谷のフードポンプ

ここまで、ポジティブリスト制度の概要から具体的な対応方法まで解説してきました。この制度は、食品用器具・容器包装に使える物質を限定することで、未知の有害物質から消費者を守る重要な仕組みです。
2025年6月1日から本格施行され、事業者には適合証明書の確認や取引先への情報伝達が義務付けられています。対応には手間がかかりますが、消費者の信頼獲得と国際競争力の強化につながる重要な取り組みといえます。
ポジティブリスト制度への対応はもちろん、詰め替え時の衛生問題も解決する選択肢があります。
三谷のフードポンプは、ポジティブリスト制度に完全適合した食品用容器です。合成樹脂部分に使用されている全ての物質がポジティブリストに掲載されており、安心してご使用いただけます。
さらに、フードポンプには独自の利点があります。ポンプ式のため、内容物が空気に触れる機会が少なく、酸化や劣化を防ぎます。また、容器の底まで効率的に取り出せるため、フードロス削減にも貢献します。密閉性が高いことから、詰め替え文化における衛生面の不安を解消することもできます。
サステナビリティと安全性を両立させたフードポンプは、これからの食品容器のスタンダードとして注目されています。
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